COLUMN of 高橋克之

【第1回】貝

2021-02-25

貝よりはじめよう

■貝に入る

82P.jpg

貝を覗いてみる
そうすると、貝から出られなくなった
それは覚悟していたが、やはりつらい
つらい中で、10以上前にもやはり貝を覗いていたことが思い出された
どうやらあまり代わり映えしていないように感じられた
貝の中には貝男がいた


貝が立ち上がる

82Q.jpg

貝男は、話しはじめる
貝の中は、ほの暗い
海の響きをなつかしむ
食べられるのもやむをえない、感じもする
そして、どういうわけか、大きくなっていく
それに伴い、貝は立ち上がる
そして貝男は私に問いただす
お前も同じく、貝男になるか、あるいは貝と別れるか

さて、どうしたらよいものか
と、考えて考えて眠くなり、ふと、ここはどこなのか、と考える
そしてあぁそうじゃ、ここは10年後のハタホテルだった
と思い出したところで、貝から身を出すことができた

あたりは、津波と不況であとかたもない

貝に乗る

82R.jpg

貝男の質問を、再び考え始める

結局、貝男になることも、貝と別れることもやめるのがよいという結論にたどりつく
それでどうするか考えた末、とりあえず、貝に乗ってみることにした

すると、10年昔もそんなことがあったようである
バランスを取ろうとあたふたする

なぜか ねじ式 のラストシーン を思い出した


ページトップへ

【第2回】大輪ハウスへ入る

2021-02-25


 駅前の大きな看板を見ると『雲海の見える、露天・岩盤浴』とあった。「雲海」にひかれ、行くことにした。車で1時間ほど走って到着した。

 中に入ると「あまちゃん」に似た受付がいた。料金を支払うと、インストラクターを紹介された。  

「インストラクターの小泉京子です。よろしくお願いします」
「お世話になります」

 小泉さんと私はエレベーターに入った。エレベーターは地下20階で止まった。ドアが開くと、野球場ほどの空間があった。中央には巨大なリング状の物体が浮かんでいた。

「ここは無重力空間になっています。あちらに浮かんでいる物体、『大輪ハウス』までご案内します。私と同じような動きをして、ついてきてください」

ring2.jpg

 小泉さんは、軽くジャンプすると、ふわりと浮きあがった。私も同じように浮き上がった。バタ足のような動きをすると、ゆっくりと前に進み始めた。3分ほどで大輪ハウスの切れ目に着地した。

「それでは、輪の中へお進みください」

 私は輪の中へ入っていった。


一周目

 進むにつれて暗くなっていき、真っ暗闇になった。無限に広がる暗闇の中に漂っている、という感覚だった。しばらくすると、暗闇の向うに「もや」のようなものが見えてきた。「もや」は少しずつ人の形になり、最後には座禅を組んだ坊さんになった。坊さんは何かを唱えはじめた。

「・・・のぉおぉぉ・・なぁのぉかぁ・・めぇのぉぉ・・ほぉうぅ・・よぉうぅ・・」

 いつのまにか眠ってしまった。

 小泉さんの声で目が覚めた。自分は輪の切れ目を漂っていた。

「お客様、現在一周したところです。あと二周で終了です。今から3分休憩してください」

 輪の外に出て休憩した。下を見ると一面が雲で覆われていた。

ring1.jpg


二周目

 小泉さんの指示で、再び輪の中へ入っていった。一週目と同じように、暗闇になり、坊さんが現れ、唱えはじめた。

「・・のぉおぉ・・しぃじゅぅ・・くぅにぃ・・ちぃのぉ・・ほぉうぅ・・よぉうぅ・」
やはり寝てしまい、小泉さんの声で目が覚めた。

「お客様、現在二周したところです。あと一周で終了です。今から3分休憩してください」

 ここから先は一週目と違っていた。輪の外に出られなかった。私は相当な大きさに膨れ上がっていた。

ring3.jpg


 なぜこうなったのか小泉さんに尋ねたところ、しばらく間があり、質問とは違う返事が返ってきた。

「輪の中で見たこと、輪の中で聞いたことは、誰にも話さないでください」


三周目

 3分ほど過ぎて、小泉さんの指示が出た。

「休憩終了です。輪の中へお進みください」

 膨れ上がった体でも、輪の中へ進むことはできた。しばらくすると、やはり暗闇になり、坊さんが現れた。ここから先は違っていた。坊さんの向うから何者かが近づいてきた。あまちゃんだった。

 あまちゃんが坊さんに話しかけると、坊さんは竹刀を渡した。あまちゃんは竹刀を持って私に近づいてきた。私の目の前まで来ると、何かを確かめるように竹刀を私の頭に乗せた。そして竹刀を大きく振りあげ、思い切り振りおろした。

 その後気絶し、小泉さんの声で目が覚めた。

「お客様、以上で終了です。こちらへ来てください」

 そう言われて、体が元の大きさに戻っていたことに気づいた。受付へ戻るまでの間、なぜ元の大きさに戻ったのか小泉さん聞いてみたが、返事はなかった。

 受付に戻ると、武田鉄也に似た男性がいた。

 武田鉄也はにっこりと笑い、「坊さん、見たんでしょ。何と言ってました」と尋ねた。
「坊さんですか。見てませんよ」と答えると、武田鉄也は私の顔をしばらくながめてから言った。

「・・・もし言ってもらうとね、料金全額の払い戻しができるんです。・・・どうですか、思い出せませんか」

「あぁ、思い出しました。坊さんらしい人、見ました。確か、『だれかの法要』とか、『ぎゃーてーぎゃーてー』とか、言ってたなぁ。・・・これでいいですか」

「うんうん、いいねぇ。あなたは、実にいいですねぇ。そういうことならね、お金をお支払いするためにね、会議室に来ていただいてね、もう少し教えてほしいことがあるんですけど、どうですか。・・・時間ですか、そんなにかかりません、5分くらいですね」

「いいですよ」と答えると、奥に連れていかれた。

 会議室のドアを開けると、机が一つ、椅子が二つあった。机の上には、パソコンがあった。椅子に座り、モニターを見ると、大輪ハウスが浮かんでいた。しばらくすると、画面左下から、誰かが近づいていった。次第に拡大されていった。私と小泉さんだった。


 会議室を出たのは、それから5時間後だった。


ページトップへ