COLUMN of 高橋克之

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#2 大輪ハウス

大輪ハウスへ入る

 駅前の大きな看板を見ると『雲海の見える、露天・岩盤浴』とあった。「雲海」にひかれ、行くことにした。車で1時間ほど走って到着した。中に入ると「あまちゃん」に似た受付がいた。料金を支払うと、インストラクターを紹介された。  

「インストラクターの小泉京子です。よろしくお願いします」
「お世話になります」

 小泉さんと私はエレベーターに入った。エレベーターは地下20階で止まった。ドアが開くと、野球場ほどの空間があった。中央には巨大なリング状の物体が浮かんでいた。

「ここは無重力空間になっています。あちらに浮かんでいる物体、『大輪ハウス』までご案内します。私と同じような動きをして、ついてきてください」

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 小泉さんは、軽くジャンプすると、ふわりと浮きあがった。私も同じように浮き上がった。バタ足のような動きをすると、ゆっくりと前に進み始めた。3分ほどで大輪ハウスの切れ目に着地した。

「それでは、輪の中へお進みください」

 私は輪の中へ入っていった。



一周目

 進むにつれて暗くなっていき、真っ暗闇になった。無限に広がる暗闇の中に漂っている、という感覚だった。しばらくすると、暗闇の向うに「もや」のようなものが見えてきた。「もや」は少しずつ人の形になり、最後には座禅を組んだ坊さんになった。坊さんは何かを唱えはじめた。

「・・・のぉおぉぉ・・なぁのぉかぁ・・めぇのぉぉ・・ほぉうぅ・・よぉうぅ・・」

 いつのまにか眠ってしまった。

 小泉さんの声で目が覚めた。自分は輪の切れ目を漂っていた。

「お客様、現在一周したところです。あと二周で終了です。今から3分休憩してください」

 輪の外に出て休憩した。下を見ると一面が雲で覆われていた。


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二周目


 小泉さんの指示で、再び輪の中へ入っていった。一週目と同じように、暗闇になり、坊さんが現れ、唱えはじめた。

「・・のぉおぉ・・しぃじゅぅ・・くぅにぃ・・ちぃのぉ・・ほぉうぅ・・よぉうぅ・」
やはり寝てしまい、小泉さんの声で目が覚めた。

「お客様、現在二周したところです。あと一周で終了です。今から3分休憩してください」

 ここから先は一週目と違っていた。輪の外に出られなかった。私は相当な大きさに膨れ上がっていた。


 なぜこうなったのか小泉さんに尋ねたところ、しばらく間があり、質問とは違う返事が返ってきた。

「輪の中で見たこと、輪の中で聞いたことは、誰にも話さないでください」

三周目

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 3分ほど過ぎて、小泉さんの指示が出た。

「休憩終了です。輪の中へお進みください」

 膨れ上がった体でも、輪の中へ進むことはできた。しばらくすると、やはり暗闇になり、坊さんが現れた。ここから先は違っていた。坊さんの向うから何者かが近づいてきた。あまちゃんだった。

 あまちゃんが坊さんに話しかけると、坊さんは竹刀を渡した。あまちゃんは竹刀を持って私に近づいてきた。私の目の前まで来ると、何かを確かめるように竹刀を私の頭に乗せた。そして竹刀を大きく振りあげ、思い切り振りおろした。

 その後気絶し、小泉さんの声で目が覚めた。

「お客様、以上で終了です。こちらへ来てください」

 そう言われて、体が元の大きさに戻っていたことに気づいた。受付へ戻るまでの間、なぜ元の大きさに戻ったのか小泉さん聞いてみたが、返事はなかった。

 受付に戻ると、武田鉄也に似た男性がいた。

 武田鉄也はにっこりと笑い、「坊さん、見たんでしょ。何と言ってました」と尋ねた。
「坊さんですか。見てませんよ」と答えると、武田鉄也は私の顔をしばらくながめてから言った。

「・・・もし言ってもらうとね、料金全額の払い戻しができるんです。・・・どうですか、思い出せませんか」

「あぁ、思い出しました。坊さんらしい人、見ました。確か、『だれかの法要』とか、『ぎゃーてーぎゃーてー』とか、言ってたなぁ。・・・これでいいですか」

「うんうん、いいねぇ。あなたは、実にいいですねぇ。そういうことならね、お金をお支払いするためにね、会議室に来ていただいてね、もう少し教えてほしいことがあるんですけど、どうですか。・・・時間ですか、そんなにかかりません、5分くらいですね」

「いいですよ」と答えると、奥に連れていかれた。

 会議室のドアを開けると、机が一つ、椅子が二つあった。机の上には、パソコンがあった。椅子に座り、モニターを見ると、大輪ハウスが浮かんでいた。しばらくすると、画面左下から、誰かが近づいていった。次第に拡大されていった。私と小泉さんだった。


 会議室を出たのは、それから5時間後だった。


#1 貝よりはじめよう

2017-09-05

貝に入る

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貝を覗いてみる
そうすると、貝から出られなくなった
それは覚悟していたが、やはりつらい
つらい中で、10以上前にもやはり貝を覗いていたことが思い出された
どうやらあまり代わり映えしていないように感じられた
貝の中には貝男がいた

貝が立ち上がる


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貝男は、話しはじめる
貝の中は、ほの暗い
海の響きをなつかしむ
食べられるのもやむをえない、感じもする
そして、どういうわけか、大きくなっていく
それに伴い、貝は立ち上がる
そして貝男は私に問いただす
お前も同じく、貝男になるか、あるいは貝と別れるか

さて、どうしたらよいものか
と、考えて考えて眠くなり、ふと、ここはどこなのか、と考える
そしてあぁそうじゃ、ここは10年後のハタホテルだった
と思い出したところで、貝から身を出すことができた

あたりは、津波と不況であとかたもない

貝に乗る

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貝男の質問を、再び考え始める

結局、貝男になることも、貝と別れることもやめるのがよいという結論にたどりつく
それでどうするか考えた末、とりあえず、貝に乗ってみることにした

すると、10年昔もそんなことがあったようである
バランスを取ろうとあたふたする

なぜか ねじ式 のラストシーン を思い出した

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